059-25年の開き

吾妻ひでお 2009 地を這う魚:ひでおの青春日記 角川グループパブリッシング

 吾妻ひでおの新刊『地を這う魚』を入手、さっそく読了。

 過去に国内の主要な賞を総なめして話題となった『失踪日記』と版元は異なるものの装丁は同じオレンジ色を基調としている。タイトルよりも著者名の方がでかい。ちょっと前に新井素子との共著『交換日記』を文庫で復刊させ、最近では『うつうつひでお日記』を立て続けに出す。カドカワは吾妻ひでおで何をしようとしているのだろう。

 出版業界の事情はさておき、中身である。

 ざっとまとめてしまえば、60年代に北海道は浦幌から東京へ出てきた青年が、マンガで生きていこうと決心し、同郷の仲間とともに暮らしながら明日をも知れぬ日々を送る自伝的作品、とでもなろう。デビュー前後のこのころのことについては、吾妻ひでおは何度も作品に反映させている。

 84年にSFマンガ競作大全集に掲載された(倉田わたる氏資料による)「夜の魚」「笑わない魚」は、タイトルを見れば分かるように、本書の内容とリンクしている。登場人物の造形も同じであり、84年発表の2本は本書のなかのエピソードとして含めてよいはずである。

 しかし、84年の作品と、09年の本書との、読後感の違いはずいぶん大きかった。素朴に言えば、かつての「魚」はとにかく重たく暗く、現在の「魚」はひたすら明るく感じられた。

 どうしてそう感じるのかは明白で、本書のすべてのページ、すべてのコマに、異形ではあるが生命をもつ者たちが充溢しているからである。かつての「魚」シリーズにはそれがまったくない。死の香りすらただよう。

 84年に想起された60年代後半と、09年に想起された60年代後半。人生の同じステージであったとしても、想起する現在の違いによってこんなにも表現の内容が変わるものなのだなあ。

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