「教育学入門」を構想する:学習論としての「あまちゃん」(01)

dun (2014年1月23日 20:32)|コメント(0)| トラックバック(0)

あまちゃん 完全版 Blu-rayBOX1

「教育学入門」というタイトルの講義がありまして,昨年からその担当になっています。前期に「教育学入門1」が,後期に「2」が開講され,私は後期の方の担当です。大学の時間割の関係で「1」の履修者は教育学部の学生が大半らしいのですが,「2」の方はいろいろな学部からの学生が受講しに来ていて,280人くらいが履修登録をしています。300人教室がいっぱいになり,熱気がすごいです。

担当とは言っても,全部で15回の講義を同僚の臨床心理学がご専門の先生と半分ずつ担当することにしています。今年の私の担当は後半の7回でした。

15回の講義を統一するテーマとして,臨床の先生と相談し,「学校」を取り上げることにしています。前半に,学校を中心とした心理臨床的な相談についてご講義いただき,私がそれに続いて学校での「学習」について議論するという流れです。

初回はいつもオリエンテーションを行うのですが,その際に私は下記のような文章を用意して講義の目的をお話ししました。

(教育学入門2の)後半では,私たちの社会の中にある,さまざまな教授学習の仕組みについて考えるための「思考の道具」を身につけてもらいたいと思います。

教えることと学ぶことを,ここではまとめて教授学習と呼びます。現代の私たちの社会において,教授学習を目的とする代表的な制度が「学校」です。

しかし,社会全体に視野を広げてみると,学校以外にもさまざまな教授学習の機会があることが分かります。例えば町を歩けば「塾」や「茶道教室」など,学校ではない「教室」の看板があります。また,学校を卒業して社会人として働く中で教えられ,学ぶこともたくさんあるでしょう。そもそも,入学前の幼い子どもは生活に必要なさまざまな技能を家族から教えられ,学んでいるのではないでしょうか。

では,学校における教授学習と,社会の中にあるその他の教授学習は,何がどう違うのでしょうか。

本講義では,こうした問いに答えるための概念や理論を,ドラマを具体的な例として示しながら紹介していく予定です。

上記の文章の最後にちらりと「ドラマ」と書かれていますが,それが指していたのが実は「あまちゃん」でした。「あまちゃん」はご存じの通り,2013年4月から放送されたNHKの朝の連続テレビ小説。私はこのドラマを6月くらいから見始めました。はじめは家族がテレビをつけて見ていたのを横目で眺めていた程度だったのですが,何がどう良かったのか(今でもなぜ引き込まれたのかがよく分からないのです),いつの間にか毎日見なければ気が済まなくなってしまっていました。それくらい,はまったのです。

はまったとは言え,ドラマはドラマ。大学での自分の仕事とつなげて考えてはいませんでした。当初は。

しかし,9月の放送終了直後から2か月おきにドラマのDVDがリリースされると知って,「『あまちゃん』を素材とした学習論についての講義ができるんじゃないか」「9月にDVDが出るのなら,ちょうど後期の講義開始に間に合う」などと考え始めました。

「あまちゃん」のストーリーについて簡単に触れておきますと,主人公の高校生,天野アキが母親とともに岩手県の架空のまち,北三陸市にやって来たところからドラマが始まります。彼女がそこで見たのは自分の祖母,夏が「北限の海女」として海に潜ってウニをとっている姿でした。それに感化されたアキは海女となるのですが,若く(そこそこ)かわいい彼女がインターネットで紹介されると,とたんにアイドル的人気が出てしまいます。すると今度は,親友の足立ユイとともに町おこしのための地元アイドルユニット「潮騒のメモリーズ」を結成。2人は東京からのスカウトに目をつけられてアイドルグループ「GMT47」のメンバー候補として上京することになります。いろいろあってアキ1人だけが上京し,そこでGMT候補の仲間とともにアイドルとしての下積み生活を始めます。

物語はさらに続くのですが,ここから分かるように,アキは海女やアイドルというプロフェッショナルの世界に新人として入っていき,そのどれからも中途半端な状態で抜けて次のプロフェッショナルの世界に飛び込むことを繰り返します。

プロフェッショナルの世界は,現場で学び,学んだことがその世界の立ち位置の変化として可視化される場でもあります。例えば,海女の仕事は海に潜って海産物をとり,その姿を観光客に見せたり,実際にとったものを売ったりすることです。ですから海女の仕事には,まず,長く潜れること,海産物をとること,自分が泳ぐ海域についての知識を得ることといった知識・技術の習得がかかせません。そして,それぞれの知識・技術の習得は,そのまま,海女として「やらせてもらえること」の範囲の拡大,ひいては,海女のコミュニティ内での立ち位置や評価の変化にもなります。

仕事の世界に特有なこうした教授学習過程は,学習科学の分野では「状況論」や「ワークプレイスラーニング」といった領域として確立しています。そのことについて「あまちゃん」を素材に語ることができるのではないか。さらに,学習を目的とした制度ではない職場などでの学習を取り上げることで,学習のための制度である「学校」の特色に気づいてもらえるのではないか。9月の段階で思いついたことはこれくらいのことでした。

11月からの後半の講義開始を前に,文献や本を集めるのはもちろんのこと,DVDも見て(11月にはちょうどDVD第2集もリリースされていました),だいたいの話す内容を精査していき,最終的に「アキの訛り」と「成長しないヒロイン」という2つのテーマをめぐって3回ずつ,6回の講義プランを立てることができました。

2013年度北海道大学全学科目「教育学入門2」の後半,「学習論としてのあまちゃん」はこのようにして始まったのです。


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