子どもの自然な発話を、特に、大勢が集まる場所で子どもが話す言葉を研究の対象としている私にとって、その声をいかに効率よく採集できるかが生命線である。
ビデオカメラを使って、映像と音声を同時に採集するというのが、最近では最もポピュラーとなった方法だろう。カメラもさほど高い買い物ではなくなったし、民生品ではDV、DVD、HDDと、ラインナップも充実している。
しかし、ビデオカメラは音声採集には不向きだ。内蔵マイクでは周囲の音を拾いすぎる。外付けのズームマイクを利用してもまだ不十分だ。大勢が走り回る中、ある特定の子どもが何を話したのか、ズームマイクで拾った音を何度聞いてもさっぱり分からない。ただ、ひたすら喧噪が鼓膜を打つのみである。
こうなると、発話データも不完全なものにならざるを得ない。勝手な推測を補うわけにはいかないから、分からない部分はおとなしく「不明」としておかねばならない。結果、子どもたちの発話のほとんどに「不明」印が置かれる。
この問題を回避するにはいくつかの方法が考えられるが、現在私が採用しているのは、ターゲットとなる子ども自身にマイクをつけてしまうというものである。
この方法は結構昔から使っていて、ワイヤレスマイクを装着してもらっていたこともある。しかしワイヤレスではトランスミッターもつけてもらわねばならない。よくテレビ番組で、出演者が尻ポケットなどに入れておく黒い四角いもの、あれがトランスミッターだ。しかし、これは子どもの動きを大きく阻害する。
ICレコーダを子どもの胸あたりにつける、あるいは胸ポケットに入れておくということもやろうとした。しかし、ICレコーダはなかなか重たいものである。もう少し軽いものがほしい。
そう考えていたあるとき、よいものを発見した。
重さはたった22グラム。マイクは内蔵されており、256MBモデルで約4時間は録音が可能。録音した音声データは付属のUSBケーブルを経由してWindowsパソコンに取り込むことができる(付属のソフトでWindows標準のWAV形式に変換可能)。おお、なんというすぐれもの。これなら子どもの胸につけてもさほど重くはないだろう。(いまちょっとiRiverのウェブサイトをのぞいてみたら、新モデルN11が発表されていた。FMチューナー付きだと!ふぬー。)
現在は子どもの胸にN10をテープで貼り付けて発話を採集している。これだと、静かなところならごく小さい声(たとえば、ささやき声)もやすやすと聞き取ることができる。
しかし、これにも問題はあった。コンパクトなのだが、テープで胸に貼り付けて固定しておかねばならないのである。スマートではない。
この不満を解消してくれるかもしれないものをごく最近見つけた。Samsung社のYP-F1ZB。なんと、クリップ付きである。これなら、子どもの服の襟元に引っかけることができる。まだ入手していないが、音質がN10と同等ならば大量に購入してみたい。
夢は、幼稚園の子ども全員にこういったマイクをつけて、発話をあますことなく集めることである。