Research

現在,いくつかのプロジェクトを並行して進めています。

1.  小学校の授業における教師・児童間インタラクションの機序に関する社会生態学的研究

学校の教室は学習課題を解決する場です。他方で,そこに参加する教師や児童はそれぞれ独自の動機をかかえながら,同時に集団を組織化するという作業にも従事しています(Erickson, 1996)。このような観点をもって,小学校の教室で起こるさまざまな出来事を記述・分析しています。

記述と分析に際し,いくつかの方法を試みています。

①視線や姿勢,挙手行動などの非言語的行動からみた授業の記述

直接的な対面状況である授業では,言語行動だけでなく,参加者の非言語的行動も重要な意味をもちます。これまで,教師と児童が授業中にどの方向にどのようなタイミングで視線を向けるかを分析してきました。

②身体の揺れと対面行動からみた授業中のコミュニケーションネットワークの記述

授業は一般に10人を超える人々が参加する集団的コミュニケーションとして展開されます。その非言語的行動を記述するための時間的なコストが高いという現状があり,多くの授業を記述するにはいたっていませんでした。

そこで(株)日立製作所の協力のもと,同社の開発した対面行動センシングシステム「ビジネス顕微鏡」を応用することで記述の労力を劇的に削減させています。さらに,縦断的・横断的に複数の授業を同じ側面から比較することにより,授業改善策の提言へもつながることが明らかにされつつあります。

現在,教員養成課程や校内での授業研究における教員の継続的な力量形成を目的として,授業でのファシリテーションスキル向上のためのカンファレンス・システムの開発プロジェクトを展開しています。

このように,単に現象を記述するだけでなく,教育実践に携わる先生方との協働を大事にして実践への貢献ができるような研究を志向しています。

2. 家族間会話への幼児の参入過程に関する社会生態学的研究

家庭とは子どもが最初に言語に出会う場です。多くの言語発達研究はこれまで家庭の中で養育者とともに過ごす乳幼児の発することばを記録し,そこから言語能力の発達過程に関する理論を生み出してきました。

しかし,子どもの発話の条件となるはずの家庭という社会的な状況がいったいどのようなものなのかについての自覚は薄かったように思われます。コミュニティの中でのライフスタイルの多様化が進む中で,ひとくちに「家庭」としてまとめきれないほど家庭環境もまた多様化していることが予想されます。

そこで,そもそも子どもが暮らす家庭なるものがどのような条件の下で成立しているのかを理解する枠組みを設定した上で,家庭内の養育者と子どものコミュニケーションを分析しています。

問題意識を共有する研究としては,Ochs & Kremer-Sadlik (2013)やGoodwin & Cekaite (2018)があります。

3. 幼児・児童の家庭内での電子デバイス利用実態の社会生態学的研究

現代の子どもの発達を考える上で,テクノロジーの存在は無視することができません。

科学研究費補助金の支援を受けて,家庭内での幼児・児童の生活を撮影し,その動画に映された生活実態を分析しています。

文献
Erickson, F. (1996). Going for the zone: the social and cognitive ecology of teacher-student interaction in classroom conversations. In D. Hicks (Ed.), Discourse, learning, and schooling (pp. 29–62). New York: Cambridge University Press.
Goodwin, M. H., & Cekaite, A. (Eds.) (2018). Embodied family choreography: Practices of control, care, and mundane creativity. Oxton, UK: Routledge.
Ochs, E., & Kremer-Sadlik, T. (Eds.) (2013). Fast-forward family: Home, work, and relationships in middle-class America. Berkeley, CA: University of California Press.